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01. 名も無き少年

 それは、ある意味……狂気。

 求められる事を望み、すべてを与える愛になるとそれはいう。
 善悪の判断など、所詮はひとの中で生み出されたものに過ぎず、それにとってはどんな目的であろうと与える幸せには違いないのだろう。
 それでも……。
 世界で一番大きくて偉大な……マナの木に女神の姿がだぶって見えた。
 両手を広げ、慈愛の笑みを浮かべてすべてを受け入れる女神。
 だが、その言葉が、その微笑が、どこか狂気じみて見えて……なんだか寒くなった。

 眼下に広がる世界。
 砕けるように、切り取られるように、アーティファクトに姿を変えていく。

 アーティファクトとは何だろう?
 手にすれば、街が、森が、世界が浮かび上がる。
 だが、その世界に住んでいる人々も同時に現れるわけではない。アーティファクトが使われようと使われまいと、彼らには彼らの生活があり、私にとってその生活に踏み込む扉が現れるに過ぎない。
 それはまるで、忘れていた事を思い出すように広がる世界。
 私にしか扱えない、私だけのアーティファクト。

 私だけは、何かが『違う』という証。

『……エル……』

 ──呼んでる……。

『求めてください、歩いてください……わたしはすべてを与えます……エル・カリクティシア……』

 ──私を呼んでる……。

『わたしを……して、あなたは…………りな…い』

 ──それは、理不尽な要求。

「…………」

 ──だけど、その為に私が居るというのなら……。


「……っ! ……師匠!」


 ぼふっ……っと顔面に打ち下ろされた物を無意識に払いのける。息苦しいと感じたからこそ出来た行動だが、感じられないほどに深く眠っていたらどうしてくれるんだ。

「もー、師匠いつまで寝てるんだよ!
 さっきから飯が出来たってコロナが怒鳴ってんだぞ!!」

 窓から差し込む眩しい光に目を細めると、そこに居たのは森人の子供。
 ああ……確か名前はバドだっけ。コロナと言うのはこの子の双子の姉の名前だ。
 ドミナの町で絡まれて、そのままなし崩しに居候を許す事にしてしまったんだった……今更ながら自分の優柔不断さが恨めしい。

「……師匠?」
「……バド、私の名前を呼んでいたか?」
「は? え、あ……いや……?」
「そうか……」

 夢の中で散々名を呼ばれていた事を思い出して問い掛けてみるが、何故か目をそらされてしまった。
 思ってみれば、この子供たちは私の名前なんて覚えていないかもしれない。
 誰に貰ったのかも忘れてしまったが、こんな長い面倒な名前、自分で付けたのではない事だけは確かだ。

 夢なんてものは取り留めの無いものだが、それでも私は良く夢を見る。
 昔は何も無い所をただ空虚に彷徨っている夢が多かった気がするのだが……しかし最近は……いつからだろう、名を呼ばれる夢が増えたような気がする。
 何もなかった私に誰かが名前をくれて、そして呼んでいる……そんな感覚。

「師匠……起きてるよな?」
「起きてる……と思う」

 ──この世界が夢じゃないなら……。

「思うってなんだよ、思うって。
 ……ったく、全然起きてこないから心配になって見に来て見れば、泣きそうな顔して死んだように寝てるし、揺すっても呼んでも起きないし……」

 しかし、この世界と夢の中の出来事、どちらが夢でどちらが現実かと問われると、どちらも夢でどちらも現実のような気がしてくる。
 まるで、夢の中で夢を見ているような。

「……って、聞いてるのか、師匠。……師匠!! ……エル・カリクティシア!!」
「……え? ああ、すまない。聞いていなかった」

 そりゃもう全然。
 ずっと一人暮らしだったし、人と話しながら生活する事に慣れていないんだから仕方が無い。

「……あー、もういいよ! 飯だからなっ! コロナに怒られてもしらねーぞ!」

 だー! と一声咆えてバドは階段を下りていく。
 朝から賑やかな事だ……。
 そして、1階から朝食の匂いが流れてくる事にもやっと気が付いた。

「そうか、ひとりじゃないんだった……」

 自分が何かしなくても動いていく事があるというのは不思議な感じだ。
 不思議といえば……

「……? 名前覚えていたのか……」

 考え事をしていたのが、名を呼ばれて急に「喚び戻された」感じがした。

「……とすると「こっち」で呼んでいたのはバドだった……のかな」

 目をそらしていたのは、呼び捨てにした事でも気にしていたのだろうか。
 別にそんな事どうでもいいのだが……というか、そもそも名前を呼ばれた経験が少ないから、呼ばれる事自体不思議な感じがする……呼び捨てにされようがされまいが気にはならない。

「エルさん!! いい加減にして下さいよ!?」
「……っと、すまない、今行く」

 考えにふけるのは私の悪い癖のようだ。
 成り行きとはいえ同居人が増えたのだから、少しは人に合わせるという事も覚えなくては。
 私は急いで身支度を整えると、腹を空かせたバドの小言と、テーブルの前に仁王立ちするコロナの文句を受ける覚悟で1階へと降りた。
【 聖剣伝説LoM 】
の名も無き20のファンタジーから。
少年じゃないけどなー。淡々としたひとがすき。

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