読み物


A spoon of sugar3(byうぃりーさん)

2004/12/08 (Wed)
■「A spoon of sugar」の3作目です。雲竜が登場します。(裕季サオリ)

★A spoon of sugar 3(2001.6.16登録)

ぶんっ、
ぶんっ、
ぶんっ、…

ここは、とある公園。
一人公園の中で打撃練習をする人影があった。
効果音が素振りのように聞こえるのは、単にバットにボールが当たらないから。
この少年、実はバッティングセンスはまるきりないのかもしれない。

「投げるのは自信があったんだけどな」

そう、少年は中学の野球部で、初めてバッティング練習をさせてもらったのだ。
でも、全然バットにボールが当たらない。
素振りも決してうまくない。
いままでピッチングの練習ばかりしていて、打つ方は練習していなかった。
ある意味、そのつけが回ってきたのかもしれない。

その公園を通りがかる一人の関取があった。
周囲の人が誰だかわからないようだから、幕内という訳ではないのだろう。
それでもそれなりの風格を感じさせるあたり、ただ者ではあるまい。

ふと、空振りしている少年の方をみる。
昔慣れない野球の練習をしていた頃の自分の姿と重なって見えた。
一人のライバルと対決するために自分を磨いた日々、
今は異なる道を歩んでいるとはいえ、今の自分があるのは、
その対決のおかげだと、今ならそう思える。

「そんな練習ならいくらしても無駄たい」
「・・・・おじさん、誰?
 それより、おじさんお相撲さんなんでしょ?
 おじさんに野球がわかるの?」
「こう見えてもおいどんは高校球児だったたい」
「本当に?」
「がっはっは」

相撲取りのおじさんは、少年からバットとボールを受け取ると、
右手で軽くトス、左手一本でボールを叩く。
ボールは一直線に金網に向かって飛んでいくと、そのまま金網に突き刺さった。

「おじさん・・・・ボール、取ってよ」
「おお、すまんすまん」

おじさんは、金網をねじ曲げてボールを取り出す。

「おじさん、一つ言っていい?
 そんなバッティングおじさんにしかできないよ」
「がっはっは、何事も基本は一緒たい。
 おいどんが投げるから打ってみるたい」
「うん・・・でも、いくら振ってもバットに当たらないんだよ」
「考えて振るからたい」
「考えないと振れないよ」
「考えずに自然にバットが振れるようにならんと
 いつまで経ってもあたらんもんたい」
「うん・・・でも、どうしても考えちゃうよ」
「おいどんが振るのをみて、その通りにやってみるたい」
「おじさん、さっき片手で振ってたじゃない」
「おいどんも正しいスイングもできる」

そういうと、おじさんは両手で、きちんとバットを持つと
正しいスイングでバットを振ってみせる。

「・・・・おじさん、本当に高校球児だったんだ」
「ずっとそう言ってたたい」
「信じられなかったんだよ、おじさん、それで、甲子園には行ったの?」
「神奈川大会の決勝までは行った」
「じゃ、甲子園には行けなかったんだ」
「明訓高校の全盛期に高校球児だったたい。
 それでも、山田と勝負できた、悔いはない」
「山田って・・・あの、西部の山田のこと?」
「そうたい」
「・・・・おじさん、どうしてそれでお相撲さんになったの?」
「元々おいどんは相撲取りになるはずだったたい。
 親方に無理を言って、野球をやらせてもらっただけたい」
「・・あ、いつまでもおじさんじゃ悪いね。
 おじさん、なんて言うの?」
「おいどんの名前か?
 おいどんは、雲竜又三郎、二代目たい」
「雲竜さんなんだね。
 雲竜さん、よろしくお願いしますっ」

少年は一礼する。

「よし、素振りから入るたい!」

少年は素振りを何回か素振りをしてみせる。

「頭が動いてるたい、それに腰もふらついてるたい、
 それじゃボールはとらえられんたい」

雲竜は少年の腰を両手で固定する。

「それにしても、華奢な体たい。
 まるで女の子たい」
「女の子だよ」
「・・・・まあ、男も女も関係ないたい。
 この状態で振ってみるたい!

腰を固定した状態で素振りをする野球少女。
最初はそれでも体がぶれていたが、何度か素振りを重ねるうちに
フォームも安定してくる。
やがて、雲竜が手を離してもきちんとしたフォームで振れるようになった。

「よし、これならボールを打っても大丈夫たい。
 おいどんが投げるから、打ってみるたい」
「うん」

雲竜が軽くボールを投げる。
野球少女がスイングする、見事に空振り。

「あれ?」
「それでいいたい、当てに行ってフォームを崩さないのが一番大切たい」
「うん」
「もう一度行くたい」

雲竜が軽く投げる。
次のスイングはきれいにボールをとらえた。
バットが澄んだ音を立てると、打球はライナーで金網に向かって飛んでいく。

「あ、打てた」
「まだ一球だけたい、練習を続けるたい」
「うん、雲竜さん」

雲竜は徐々に球速をあげる。
野球少女は最初のうちとまどっても、
やがてボールをとらえられるようになる。

「これが最後の仕上げたい」

雲竜の全力投球、雲竜には絶対に打たれない自信があった。が、

「うわぁ。手が痛いよ」
「手が痛いって・・・芯でとらえたとね」
「う、うん・・・でも、前には飛ばなかったよ」
「今のはおいどんの全力投球たい、当てるだけでも大したもんだとね」
「本当に?」
「本当たい、自信を持つたい」
「うん、ありがとう、雲竜さん」

二代目雲竜の元に、ある日、一つの小包が届いた。
その中に入っていたのは、一つのボール。
その小包には、簡単な手紙が入っていた。
「雲竜さんのおかげで打てた、最初のホームランの記念に、感謝を込めて」

                                            

***おしまい***

あとがき:
チャット強化週間での約束通り、雲竜登場の巻です。
最初は一本足打法とか、手首の使い方とかの技術編を考えてましたが
その場の勢いで(笑)実はバッティングは下手、ということになってしまいました。
さて、次回は誰になるんだろう?
知三郎直伝のトリックプレイか、それとも殿馬にリズムの取り方を教わるか・・・
それ以前に、次回はいったいいつになるやら(^^;


BACK




- Genesis -