2004/12/08 (Wed)
■「A spoon of sugar」の続編です。今度は里中が登場します。(裕季サオリ)
★A spoon of sugar 2(2001.4.23登録)
ここは、とある公園。 今は夕暮れ時、砂場や滑り台では近所の子供達が遊んでいる そんな中、たった一人、壁に向かって投球を続ける少年があった。 見た感じ小学校の高学年か中学校の1年生。 あまり体は大きくない、見た感じは華奢な印象を与える。 だが、投球フォームは決して悪くない。 年齢からしてみれば、はっきりと、よい、と言っていいだろう。 ゆっくりと振りかぶり、大きく踏み出し、そして 全身のバネを使ってボールを投げ込む。 生きたボールが壁に向かって飛んでいき、そして 壁にぶつかって跳ね返ってくる。 少年は、ただ一人、ずっと投球を続けていた。
夕暮れ時は過ぎ去るのが早い。 すぐに日が落ち、あたりは暗くなってしまう。 街灯が公園を照らすが、それでも薄暗いのは当然だ。
そんな公園を、一人の野球選手が通りがかった。
「あ・・・」
彼は、投球を続ける少年を見つける。 彼はしばらく投球を見ていた。 その姿は、誰かに似ている気がした。 しばらく見つめているうちに、それが誰に似ているのかがわかった。 その姿は、かつての、自分自身に似ているのだった。 そう思うと、彼は、その人物に声を掛けずにはいられなくなった。
「ねえ、君、何してるの?」
投球を続けていた少年は、その声で初めて自分が見られていたことに気づいた。
「投球練習」
ぶっきらぼうに答える。
「ねえ、君小学生?野球部には入らないの?」 「僕は中学生だよ!」 「あ、ごめん。 でも、中学校なら野球部ぐらいあるんじゃないかな? 野球部にはいればいいのに」 「僕だって入ろうと思ったんだ。 なのに入れてくれなかったんだ」 「どうして?君の球なら今だって中学校レベルなら通用するだろ」 「・・・・女の子はマネージャーしかさせないんだってさ」 「え?」
今まで、彼が少年だと思っていたのは、女の子だった。
「今時そんな学校もあるんだ。 プロ野球だって女性投手がいる時代なのに」
彼が言っているのは、東京メッツの水原勇気のことである。
「うん、僕もそう思って監督さんに抗議したんだ。 そうしたらキャプテンを打ち取ったら入れてくれるって言ったんだ。」 「へえ、また無茶な要求をする監督もいたものだね」 「それでも僕は自信があったから受けたんだよ。 だけど、・・・だけど、打たれちゃったんだ。 それも、平凡なサードゴロだったはずなのに、 なのに、わざととらなかったんだ、あんなの僕にだってとれるのに・・・」 「・・・・・・」
彼は、自分の中学時代を思い出していた。 自分もまた、実力はあったのに、監督の偏見で使ってもらえなかった。
「せっかく、不知火さんに教えてもらった通りにやったのに、 前は三振がとれたのに・・・」 「不知火?不知火って・・・・あの、不知火のこと?」 「うん、日本ハムの不知火投手だよ、僕、あの人に ピッチングのこつを教えてもらったんだ」
不知火、か
「・・・じゃ、こんどは俺が一つ教えてあげるよ。」 「え?おじさんも野球のことがわかるの?」 「ああ、俺だって野球選手なんだぜ」 「えっと・・・僕、おじさんはわからない」 「ロッテのスィーティって知ってる?」 「スィーティ・・・あっ!もしかして ロッテの里中さん!」
里中は本来宣伝にでるのは好きではなかった。 しかし、このときばかりは全国に名が知られていることに 感謝する気になった。
「ああ、俺も中学生の頃は監督に使ってもらえなかったからね。 だから、一ついいことを教えてあげるよ」 「どんなこと?」 「ちょっとみてて」
里中はゴミ・nbsp;から空き缶を3つ取り出すと、 ベンチの上に並べた それから、足で投球プレートを描く。
「いいかい? サイドスローで投げるときには、角度のあるボールが武器になるんだ。 だから、単に投げるだけじゃなくて、プレートの位置にも 気を配った方がいい、これだけでずいぶんと違ってくる。 そして、ホームベースの真ん中と、角と、少し外の 3カ所に当たる位置に空き缶を置いてね・・」
そこからは言葉じゃない。 里中はゆっくり振りかぶると軽くボールを投げる。 プレートの一番右から、ホームベースの左端に当たる 空き缶に向けてボールが飛んでいく。 ボールは正確に真ん中の空き缶をはじき飛ばした。
「うわぁ・・・すごい・・・」 「でも、これだけじゃ三振は無理だよ。 もう一つ覚えないとね。」 「どんなこと?」 「見てて」
里中は、こんどはホームベースの角に当たるところに 一つずつ空き缶をおく。
里中はゆっくりと振りかぶると、今度は インコース側の空き缶に当てる。
「じゃあさ、僕が投げる瞬間に『外』『内』って 言ってみてよ。言ったとおりの方に投げるから」 「え〜そんなことできるの?いくら里中さんだって・・」 「おいおい、俺はプロなんだぜ」 「うん・・じゃ、行くよ」
もう一度里中が投球に入る。 大きく振りかぶり、足を胸まであげ、大きく踏み出し、 それから腕をしならせ、その腕が前へ・・
「外!」
里中の投げる球はまっすぐ外側の空き缶をはじき飛ばした。
「どう?」 「まぐれじゃない?」 「じゃ、気が済むまでやってあげるよ」
少女は信じられないものを見ることになった。 どれほどタイミングを外そうとしても、かならず 里中は言った方の空き缶をはじき飛ばした。
10球ばかり里中が投げたろうか?
「まだ続ける?」 「ううん、もういい、わかった。 でもどうしてそんなことができるの?」 「タイミングだよ。基本は外に投げるつもりでいて、 内側に投げる時だけ、すこし早くボールを放すんだ」 「それであんなコントロールができるわけないよ」 「俺はプロだからね。 でも、外を打つつもりで振りだしてるバッターは これで確実に空振りに仕留められるよ たとえ、ボールがねらったとおりの場所には行かなかったとしも」 「うん・・・ありがとう、里中さん 僕、それを練習してみる」 「ああ、がんばれ」
それから、1週間、少女はひたすら公園で練習を続けた。 とにかくあいつらを見返してやりたい。 やればできることを示したい。
そして、一週間後、部活動の申請締め切りの日。 少女は再び野球部へ入部届けを出しに来た。
「監督さん、選手として僕を入れてください」 「なんだ?おまえ、まだ懲りないのか?」 「あれから練習してきました、もう一度だけチャンスをください。 それでだめだったら、あきらめますから」 「・・・わかった、じゃあ、もう一度だけテストしよう」 「ありがとうございます」
そして、再び少女はマウンドに上がった。 前と同じように、打席にたつのは野球部のキャプテン。 はっきり言って、嫌がらせとしか思えない。 だいたいが小学校を卒業したばかりなのに、中学三年を 押さえられる訳がないのだ。
初球、少女は正確にホームベースの角をなめる速球を投げる。
「ストライク!」 「監督?今のは入ってます?」 「ああ、ぎりぎりストライクだ」 「・・・・・」
キャプテンは少し憮然とする。 逆に、少女は勇気づけられた。 この監督さんは、決して意地悪だけで入れないと言っているわけじゃない。 実力を示しさえすれば、かならず自分を受け入れてくれる。
二球目、まったく同じコースへのストレート。
カキン
「ファール」
角度がある分、打ちづらいのだ。 しかし、キャプテンはそれでタイミングをつかんだと思った。 もう一球、同じ球がくれば打てる。 それに、たとえ前に投げてきたとおり、インコースに ボールが来ても大丈夫、少女の投球フォームは インコースとアウトコースで違いがあるから かならずわかる。
三球目、
「アウトコース!」 少女の投球フォームは前二球と同じ、 これならアウトコースに決まっている、踏み込んで打てば 前回と違ってクリーンヒットだ。
「ストライク!バッターアウト!」 「えっ」
アウトコース、ぎりぎりいっぱいベースをなめるはずの ボールは、インコース低めを通っていた。 もし、アウトコースだと決めてかかっていなければ、 ホームランボールになるような甘い球だったのに。
「まさかっ」 「監督さん、約束ですよね」 「・・・ああ、わかっている」 「やったぁ!」
千葉ロッテマリーンズ、球団の人気ははっきり言って低い。 プロ12球団の中でも、低い方から数えた方が絶対にはやいのは確かである。 それでも里中の人気は別、里中には毎日のようにファンレターが届く。 そして、里中はそのファンレターすべてに目を通すのを日課にしていた。
そんなファンレターの中に、一枚、普通とは違うファンレターが入っていた。
『前略 里中さんも調子よく勝っておられるようでなによりです。 私も、里中さんのおかげで野球部に入ることができました。 最初のうちは何か特別な目で見られてる気がしてましたけど 今は特別扱いもなにもなしで、ほかの新入部員と同じようにやってます。 今は走り込みと柔軟体操と球拾いをやってます。 たまに監督さんがバッティングピッチャーをやらせてくれますが 時々打ち取りにいって怒られます。 打たれるのも技術がいるんですね。 では、里中さんもがんばってください。 私も負けないようにがんばります。 かしこ』
里中は、このはがきを大事そうに、特別なレターケースへとしまい込んだ。
***おわり***
あとがき:
これは、A spoon of sugerの続編に当たります。 前作から一年以上経ってますが、構想自体はすぐにあったんです。 まあ、さぼっていたというか、気が向かなかったというか。 それにしても、この少女未だに名前がないです。 私にはセンスがないから勝手につけてもかわいそうですし。
では、
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